春爛漫の東京は秩父宮ラグビー場。快晴夏日。4000~5000名の観衆を集めて第100回同志社慶應定期戦が行なわれた。企業の寿命は30年と言われるが、よくもまあラグビー定期戦が100回も継続出来たものである。継続こそ力、改めて初先輩方に敬意を払いたい。また、100回の記念大会の居合わせたことに感謝したい。
結果は、同志社大学55:40慶應義塾大学で100回記念大会は同志社の堂々の勝利。たかが定期戦(練習試合)、されど第100回定期戦である。特に今回は、単なる定例練習試合ではないと誰もが意識していた。選手も観客も勝利に対し本気で向き合っていた。春シーズン浅いとは言え、正にこの記念試合を両校とも勝ちに行ったのである。その気迫が試合前の選手の表情に見て取れた。
春シーズン特有であろうが、文字通り派手なシーソーゲームとなった。この時期、防御よりも攻撃に重点を置いて練習しているためか、点の取り合いになった。同志社は、試合開始のキックオフからいきなりのノッコーンで招いたピンチで早々に点を入れられ、嫌な雰囲気で試合が始まった。開始10分には同志社に不運のシンビン。思わぬ大差敗退の不安が過ぎる。
「殴り合いになったら同志社が勝ちます。」とは、試合後の山神前監督の談。試合後のインタビューで慶應の佐藤キャップテンが「タックルで最小得点に押さえるのが慶應ラグビー。それを練習し試合に臨んだ。」と言っていたが、そうは問屋が卸さなかった。
一方、同志社サイドは試合後、異口同音に「練習どおりの試合が出来た。」と言っていた。練習内容を知らない我々には全く回答になっていないのだが、試合後の監督インタビューで萩井監督は「コンタクトに重点を置いて練習して来た。」と言い切った。そうなのだ。試合こそバックスの派手な好走が目立ちに目立ったが、これを可能にしたのは、正に同志社フォワードの大健闘である。もっともバックの突進でもコンタクトは強く、ターンオーバーされることなくフォローを待って球を繫いだ。
萩井監督によれば「昨年の天理戦や東海戦でコンタクトでの劣勢を嫌というほど経験した。」とのことである。その反省の下に、選手が体が「痛い、痛い。」と言うほど練習を重ねて来たのだ。今、思えば萩井監督が率いた往時の関学の強さは、このコンタクトの強さにあった様にも思える。
ご承知の通り、同志社フォワードは8人中5人も先発レギュラークラスが卒業した。まだまだひよこの新設フォワードであり、その力は未知数ながら同志社ファンには不安に満ち満ちていた。しかしながら、一番心配したスクラムでやや劣勢ながらよもやの健闘。ラインアウトはLO堀部選手②の安定度が増し、競り合いが少なかったとは言え互角以上の奮闘。そして何よりもコンタクトで勝り、着実なダウンボールを行なった。密集への寄りも同志社が一枚上と見えたが如何であろうか。これを先発SH原田選手②が着実にバックスに供給し、得意の高速展開ラグビーに繋げた。
球が左右に大きく動けば、同志社の方が慶應より一枚も二枚も上であった。これには誰も異論はないであろう。強いコンタクトでフォワード戦で優位に立ち、高速でバックスに左右に大きく散らす同志社ラグビー、バックスの縦突進も強力だ。”もはやお家芸”とも言え、今年の「同志社ラグビーの目指す」方向が垣間見えた。
今定期試合の立役者は、間違いなく同志社フォワード8名であり、そのコンタクト、密集での寄りが、綺麗なダウンボールと早い球出しを可能にした。そしてCTB永富選手③の憎いまでの判断力とFB安田選手③のライン参加が敵防御網を切り裂いた。この二人の力強さと円熟さが試合を優位に進める原動力となった。
また、この手があったのかと感服したのが、山口選手③のWTBからアウトアイドCTBへのコンバートである。体力とキップの良さを無尽に発揮した。レギュラー定着しそうな勢いを感じた。この結果、大幅にスペースが空いてボールを受けた鶴田選手④が俊足で左ライン際を駆け抜けた。いや、この表現は適当ではない。敵防御陣を引き付け、見事なステップで切り裂いたのである。トライ数、実に4個。スローフォワード判定さえなければ合計5個に達っしようかと言う千両役者振りを発揮したのである。正直、只者ではないのだ。伊達にセブンズジャパンのキャップを持っているわけではない。
どうしても抜けたレギュラーの穴を誰が埋めるかというのが、今般のファンの最大の関心事であり心配事である。この日、先発レギュラーに抜擢されたHO平川選手③は、体も一段と大きくなりながら、持ち前の俊敏な動きを縦横に発揮した。攻撃的HOだ。特に前半23分の敵ゴール間際でのチャネルゼロのダイビングトライは強烈な印象を残し、同選手の存在感を見せ付けた。レギュラー定着の余韻を感じた。
服部選手②はロックに先発起用され、安定したスクラムの原動力となった。後でHOに廻った様にも見えたが、LO堀部選手②との2回生コンビが定着しそうである。同じく先発SHを勤めたのが、SH原田選手②。いつもの一人持込(孤立)が少なく、徹底してチームプレーに徹し、底堅くノーミス近い球出しを行う等、着実で野太いプレーを魅せた。後半出場したSO古城選手②との修猷館2回生ハーフコンビが実に楽しみになった。
意外と言えば大抜擢されたWTB後藤選手④。ファンの誰もが予想もしなかった起用であるが、派手さこそないものの堅実なプレーで数少ないフル出場を果たした。単なるテスト起用ではなかったのだろう。こんなところが萩井監督の真骨頂なのかもしれない。
ただ、今後の同志社を占うのは、この日先発レギュラー起用された田中選手②と土田選手④の両プロップ陣の成長如何であろう。二人が今年の同志社の行く末を左右しそうである。ハッキリ言って同志社ファンは大きな期待と大きな不安を併せ持って両君を見ている。大成長を祈りたい。
勝ったから言うわけではないが、正に楽しく清々しい試合であった。春シーズンとして最高の試合であった。偶然の予期せぬシンビンこそあったが、両チームともペナルティーが極端に少なく、同志社慶應両校らしい見るからに綺麗な「チームプレー」に徹していた。他校に見られない素晴らしく良き伝統である。
フィールドにいると伝統校でも結構相手チームに対する罵詈雑言が聞こえて来て嫌な気分になるが、両校とも私が知る限り皆無であった。試合後の両校のキャップテンのインタビューを傍らで聞いたが、野中・佐藤両主将ともしっかりと的を得た受け応えで、また実に感じが良く好感が持てた。大学ラグビー界では希少な存在になりつつあるが、「文武両道」を貫く両校を代表する素晴らしい主将である。本当に良い一日で素晴らしい第100回記念の大会に相応しい試合だった。(F)
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